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2025.05.13  

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脳型、光、バイオ、量子、4つのコンピューティングを知ろう!



はじめに



近年は第4次AIブームと呼ばれ、AI技術の需要が飛躍的に増加しています。

しかしその反面、現在のGPUを基幹とした技術では、使用される電力が膨大になり、将来の需要を賄いきれないと言われています。


その課題に対応するため、新しい省電力のコンピューティングが模索され始めています。

その代表が「脳型」、「光」、「バイオ」、「量子」の4つのコンピューティング技術です。

今回はこれらの技術について、解説していきます。




目次



1.現在のコンピューター

2.脳型コンピューター

3.光コンピューター

4.バイオコンピューター

5.量子コンピューター




1.現在のコンピューター



新しいコンピューティングと比較するため、まずは現在のコンピューターについて解説します。

現在のコンピューターには、以下のような特性があります。


①ノイマン型コンピューター

「ソフトウェアをハードウェアの中に記録し、必要に応じて情報を読み込む」方式をノイマン型コンピューターと言います。

1950年ごろに登場して以来現在まで、コンピューターの主流となっています。


➁電子回路でデジタル信号を処理している

現在のコンピューターのハードウェアは、極小さなトランジスターによって、高い方の電圧を「1」、低い方の電圧を「0」として、二進数で計算しています。

これらトランジスターの集まりが、CPUなどのチップになり、無数の「0」と「1」の信号(デジタル信号)を計算・処理しています。


参照や注釈

ノイマン型コンピューター IT用語辞典e-Words

https://e-words.jp/w/ノイマン型コンピュータ.html (参照2025-02-14)



2.脳型コンピューター



①脳型コンピューターの仕組み

脳型コンピューターとは、人間の脳の機能を、電子デバイスで再現しようという技術で、非ノイマン型コンピューターに分類されます。

脳はニューロンと呼ばれる神経細胞からできており、その末端にある樹状突起内部のシナプスから、隣のニューロンへと電気刺激を伝えます。

これらのやり取りによりできる、繋がりの強弱が出力信号を作り出します。

脳型コンピューターではこれを模倣し、入力層→中間層→出力層へと、たくさんのニューロンを模したデバイスとやり取りして、繋がりの強さを変えることで学習し、出力結果を出します。


➁現在の開発状況

現在スーパーコンピューター上でのシミュレーションや、実際に電子デバイス(ニューロモルフィックデバイスと呼ばれる)の作成が行われています。


(1)スーパーコンピューター上でのシミュレーション

最近のものですと、ショウジョウバエの脳の5分の1である、約2万個のニューロンで構成された神経回路をシミュレーションするという研究があります。

スーパーコンピューター「富岳」を使用し、学習や記憶といった脳機能のシミュレーションに成功しています。


(2)ニューロモルフィックデバイスの作成

2024年にはインテルが、世界最大のニューロモルフィックコンピューターを開発しました。

同社によると「Hala Point」と名付けられたこのマシンは、従来のコンピューターと比較して、AIの処理を50倍の速度、100分の1の電力で行える、と述べています。

Hala Pointの実際の性能は、これからたくさんの研究に投入され、実証されていくことになります。


参照や注釈

人の思考を目指して開発が進む脳型コンピューター COMWARE PLUS

 https://www.nttcom.co.jp/comware_plus/trend/201504_1.html (参照2025-02-18)

神経について 中外製薬

 https://www.chugai-pharm.co.jp/ptn/medicine/karada/karada022.html (参照2025-02-18)

【東京大学】昆虫脳をスパコン「富岳」で完全再現する! データサイエンス百景. 2024-02-07

https://ds100.jp/research/l-022/ (参照2025-02-18)

インテル、ヒトの脳を模倣した史上最大規模のAI「ニューロモーフィック・コンピューター」を公開 田中貴金属  2024-07-05

https://tanaka-preciousmetals.com/jp/elements/news-cred-20240705/(参照2025-02-18)



3.光コンピューター



①光コンピューターの概念

従来のコンピューターでは電子回路で通信・情報処理を行ってきましたが、光コンピューターではそれらすべてを光で行います。

光コンピューティング技術はまだまだ開発途上ですが、その要素技術である光通信はすでに実現できており、徐々に電子回路から光回路へと置き換えられる構想になっています。

また光コンピューターという言葉も、「光を計算に利用したコンピューター」全体のことを指し、実際には複数種類のコンピューターに分類されます。


ノイマン型と非ノイマン型両方が存在し、それぞれに得意・不得意な計算分野があります。

そのため現在の電子計算機技術からの完全な置き換えでなく、相互補完的な利用方法が想定されています。


➁現在の開発状況

現在のところ、光論理演算、光ニューラルネットワークなどが開発されています。


(1)光論理演算

こちらはノイマン型コンピューターに分類され、2020年にはNTTが光だけで論理演算できる、「ψ(プサイ)ゲート」を開発しています。

電子回路の論理ゲートと比べて、遅延時間が1/300になる、一つの素子で任意の論理演算ができる、様々な波長で同時に演算できる、という特徴があります。


(2)光ニューラルネットワーク

こちらは非ノイマン型コンピューターに分類されます。

2022年にシリコン光集積回路のみを用いて機械学習の演算を行う、ニューラルネットワーク演算技術が開発されました。

アヤメの花弁サイズから、アヤメの種類を判別するテストを行ったところ、94~97%の正解率であったといいます。

計算処理時間は電子回路の1/1000、消費電力は数十分の一になりました。


参照や注釈

光を用いた次世代コンピューティングを実現するデバイス技術 NTT技術ジャーナル

 https://journal.ntt.co.jp/article/18551 (参照2025-02-20)

超低遅延処理のための高性能な光論理ゲートを実現”. NTT技術ジャーナル

 https://journal.ntt.co.jp/article/457 (参照2025-02-20)

産総研、光ニューラルネットワーク演算技術を開発 EETimes Japan  2022-07-04

https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2207/04/news034.html (参照2025-02-20)



4.バイオコンピューター


①バイオコンピューターの仕組み

バイオコンピューターとは、既存のコンピューターや電子チップに、人間の脳神経細胞の塊(「脳オルガノイド」と呼ばれる)を接続したものです。

これら脳神経細胞は、ES細胞やiPS細胞から作られ、実験に使用されています。

脳は消費電力が大変低く、約860億個の神経細胞を持つ人間の脳でも約20Wです。


対して既存のコンピューターで、GPT3のトレーニングに必要な電力量は約10GWhとされ、これは日本の一世帯あたり年間消費電力量の、約2500倍に当たります。


➁現在の開発状況

オーストラリアとイギリスの研究チームが、ペトリ皿の中で培養した人間の脳細胞に卓球ゲームの「PONG」の1人用モードをプレイさせることに成功しています。

既存のAIではプレイ方法を学習するために、ラリーを5000回程度繰り返す必要がありますが、このシステムでは十数回のラリーで学習できたといいます。


またFinalSpark社は「Neuroplatform」と呼ばれるプラットフォームを開発しています。

FinalSparkではこのシステムをオンラインで利用できる体制を作り、各国の大学・研究機関に遠隔実験できる環境を提供しています。


③開発にあたっての課題

(1)神経細胞の寿命の短さ

神経細胞を生存させるには、酸素・二酸化炭素濃度、温度、湿度などを細かく設定する必要があり、絶えず栄養素を与え続けなければなりません。

またバクテリアなど雑菌にも弱く、実験室内の衛生管理も欠かせません。

それでも現在の寿命は約100日程度と、決して長いとは言えません。


(2)トレーニング方法の模索

神経細胞を実験者の意図に沿って動作させるための、トレーニング方法の開発が行われています。

ドーパミンを成功時の「報酬」として注入する実験などが行われていますが、手法自体はいまだ確率できていないのが現状です。


(3)倫理的課題

バイオコンピューターは人間の神経細胞をそのまま使用するため、様々な倫理的課題を抱えています。

脳オルガノイドから目を発生させたという研究や、人間の乳児の脳波と似た信号を検出したという報告もあります。


脳オルガノイドに、意識や知性が発生する可能性が高い、と考える研究者も多いようですが、実際にそれらが発生しているかどうかは、まだわかっていません。

代表的研究者たちは、倫理的配慮を持ってバイオコンピューターの研究を進める姿勢を見せています。


参照や注釈

ヒトの「脳オルガノイド」を使った世界初の“バイオプロセッサー”は、超省エネなCPUへの第一歩になる WIRED

2024-07-29 https://wired.jp/article/finalspark-neuroplatform/ (参照2025-02-21)

実験室で培養した「ミニ脳」をバイオコンピューターとして使用するというアイデアを研究者が提唱  Gigazine 2023-03-02

https://gigazine.net/news/20230302-brain-organoid-intelligence-biocomputer/ (参照2025-02-21)

実験室内で培養した人の「ミニ脳」にゲームをプレイさせることに成功、AIよりも速いわずか5分で習得 Gigazine 2021-12-21

https://gigazine.net/news/20211221-human-brain-play-pong-ai/ (参照2025-02-21)



5.量子コンピューター


①量子コンピューターの概念

従来のコンピューターでは、「0」か「1」どちらかの状態を表す「bit」で記録・計算しています。

それに対して量子コンピューターは、「0」と「1」両方の状態を同時に表す(「重ね合わせ」という)「qbit」で記録・計算します。

この不思議な現象は、超微細な量子力学の世界で起こるものです。

量子コンピューターでは変数の多い複雑な組み合わせ計算を、超高速で実行できるとされています。


➁開発の状況

(1)量子ゲート方式

量子ゲート方式では従来のコンピューターと同じように、論理回路を用いて計算します。

大規模な数値計算や素因数分解に、用いられると考えられています。

超電導や光など、いくつかの方式が開発されており、それぞれに一長一短があります。

しかしいずれも現段階では量子ビット数が少ない、エラー耐性が低いなどの問題があり、それらの改善に向けて技術開発が進んでいます。


(2)量子アニーリング方式

アニーリングとは金属の「焼きなまし」を意味し、材料がゆっくり冷却される過程を量子で再現することで、エネルギー最小の状態を計算する手法です。

従業員のシフト最適化や、巡回サラリーマン問題など、大規模な組み合わせの問題を解くのに、役立つと考えられています。


この方式の量子コンピューターは、D-Wave社から実機が発売されており、都市交通やテレビCMの最適化問題の解決に利用されています。


参照や注釈

量子コンピューターとは? しくみを図解でわかりやすく解説 OctKnot. 2023-03-17

 https://8knot.nttdata.com/column/3648075 (参照2025-02-25)

量子コンピュータって何?今はどこまで開発が進んでいる?話題を総まとめ PC Watch. 2023-03-20

 https://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/kyokai/1486562.html (参照2025-02-25)




まとめ



今回ご紹介した4つの新しいコンピューティングは、既存のコンピューターから完全に置き換わるものではありません。

それぞれのコンピューターが得意な分野を補完し合い、共存していくことになります。

読者の皆さんも本記事を読んで、未来のコンピューティングに思いを馳せてみてください!



🏷️タグ

#脳型コンピューター

#光コンピューター

#バイオコンピューター

#量子コンピューター

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